2021.01.28

アメリカ大統領選に関するデマは日本のどこで大拡散していたのか(古田 大輔)

国会議事堂の窓ガラスを叩き割り、乱入する群衆。「アメリカ大統領選で大規模な不正があった」「真の勝者はトランプだ」。そういったネット上の根拠なき主張の行き着く先に、世界が衝撃を受けた。これは対岸の火事ではない。日本でも、強固なトランプ支持者によって同様の情報が拡散していた。

 

日本にも存在するトランプ支持者のエコーチェンバー

大前提、トランプ氏を支持するのも、バイデン氏を支持するのも、個人の自由だ。ある政治家が支持される理由は多様であり、トランプ支持者が皆、選挙不正に関する主張を全て信じているわけでも、いわゆる陰謀論につながるQアノン支持者というわけでもない。その前提を抑えた上で、トランプ大統領を強固に支持する人たちが集うソーシャルネットワークを見てみる。

これはFacebookでトランプ氏を応援しているグループのインタラクション(コメントやいいねやシェアなど)を分析ツールCrowdTangleでチャートにしたものである。

 

 

このグループのメンバーは4200人を超えており、昨年11月の大統領選投開票日以降も1週間に3万件を超えるインタラクションが安定的にあった。1月6日(現地時間)の国会議事堂での混乱をきっかけに急上昇し、1月17〜23日には8万件/週を超えた。

どういう投稿がなされているのか。

例えば、1月24日に投稿されて人気だったのは、大統領に就任したバイデン氏のホワイトハウスでの様子を「あの執務室は実は映画のセット」と主張するデマであった。

「トランプ氏が返り咲く」という主張はこれまで何度も拡散されてきたものだが、内容を変えつつ、このグループでも繰り返し投稿されている。アメリカの影に潜む秘密の権力グループ「ディープ・ステート」との戦いという、アメリカの陰謀論信奉者「Qアノン」そのものの主張をしている人もいる。

 

これが投稿の数と種類をチャートにしたものだ。投稿数の急増がインタラクション総数を押し上げており、個々の投稿に対するインタラクション率はむしろ下がっていることがわかる。種類としては、最も多いのは写真。次に記事などのリンクである。Facebook動画、YouTubeなどを合わせると、動画も約3割ある。

それらの投稿され、シェアされているコンテンツの多くはアメリカに元ネタがある。そしてそれらは、すでに裁判所で訴えを退けられたり、メディアなどのファクトチェックで誤りやミスリードなどを指摘されたりしたものである。

一方で、アメリカ大統領選でバイデン氏が勝ったというアメリカや日本の主要なメディアのニュースや公的機関からの発信は共有されない。

考えが似た傾向の人たちが、自分たちが好む情報を共有し、閉鎖的な空間で思想を共鳴させ、増幅させていく。「エコーチェンバー」そのものである。

 

トランプ氏や側近らとともに日本のTwitterアカウントも

こういった主張のもう1つの拡散源がTwitterだ。

米コーネル大学が公開したデータセット「VoterFraud2020」は、アメリカ大統領選の不正に関する760万ツイート、2560万リツイート、260万ユーザーに関するデータである。アカウントの特徴によって5つのコミュニティに分類されているが、英語以外でコミュニティとして分類されているのは、アメリカでも広く話されているスペイン語と、そして、日本語だけである。それだけ日本で不正の主張が広がった証左と言える。

 

私が理事を務める特定NPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」で管理している疑わしい言説のデータベースでも、今も連日、Twitter上で広がる疑義言説がピックアップされている。

そして、それらの元ネタもすでにアメリカにおいて検証された情報が多く、英語でのツイートに警告表示が出ていたもの、ツイートをしていたアカウントが凍結されたものもある。

 

「流行りネタ」としてのYouTube動画

もう1つ、今回目立ったのはYouTubeだ。

分析ツール「BuzzSumo」でFacebookやTwitterなどのソーシャルメディアでシェアされた投開票日以降のトランプ氏に関するコンテンツを調べると、上位は軒並みYouTube動画で、その多くはトランプ氏を支持し、選挙の不正を訴えるものであった。

 

そして、それらの動画は次々とアップ主によって削除されている。

YouTubeは大統領選の不正に関する動画を見ると、それに関連する動画が次々とリコメンドされる。トランプ支持者はそれらを次々と見て、シェアをする。その動画の注目度は高まり、その関連動画のビューも増えていく。こうして、上位を席巻していった。

 

対岸の火事ではない

これらのデータからわかることは、アメリカ大統領選において、日本は根拠不明な情報が拡散する一大拠点になっていたということ。そして、それらはソーシャルネットワーク上では、既存のマスメディアを上回る拡散力を持っていたということだ。

もう1つ、懸念すべき点がある。それは不確かな情報、明らかなデマの多くは英語で元ネタが発信されており、それらがすぐに日本語に翻訳されたり、部分的に引用されたりして日本で拡散したということだ。

英語では検証されているのに、日本では間違った情報が輸入されるスピードの方が、検証の輸入よりもはるかに早い。

 

言葉の壁は消えた ワクチン誤情報への備えを

ソーシャルネットワークが世界をつなぎ、無料の翻訳ツールの精度が飛躍的に高まることで、言語の壁も突破されつつある。他国で広がる誤情報や炎上も、自分たちにいつ飛び火するかわからない。特に世界的に注目を集める話題ならなおさらだ。

次に我々が備えるべきは、新型コロナウイルスワクチンに関して不安を煽るような誤情報の拡散だろう。Googleが新型コロナウイルスワクチン誤情報対策公開基金を設立し、ファクトチェックを支援しようとしているのもそのためだ。

WHOは「感染症の世界的な大流行=パンデミック」とともに、「情報(インフォメーション)の汚染が大流行する=インフォデミック」が広がっていると警鐘を鳴らしている。我々にはウイルスから身を守るワクチンとともに、情報汚染から身を守るメディアリテラシーとファクトチェックが必要だ。

この記事を書いたライター