フェイクニュース 対策

1日に7件以上の疑義言説が発生

フェイクニュースは、欧米だけの問題ではありません。

 2020年末には、海を隔てた向こうの米国の大統領選挙について、日本でも多くの真偽不明情報が飛び交いました。特に、「バイデン氏の得票数が短時間で増え、投票率が200%を超える計算になる」という真偽不明の情報は、なんと英語よりも日本語での拡散の方がはるかに多かったといわれます。

今、接種が広がっているワクチンについても、「ワクチンにはマイクロチップが埋め込まれており、人々を管理するためのものだ」という陰謀論的なものから、「ワクチンによって新型コロナウイルスに感染する」「ワクチンには未知の成分が入っており、肝臓が壊死する」といったものまで、様々な偽情報が拡散しています。

このような疑義言説について、シエンプレ・デジタル・クライシス総合研究所の調べでは、2020年の1年間で2,615件も発生したことが分かっています。1日にしてなんと平均7.2件の疑義言説が発生しており、私たちの身近にフェイクニュースが存在しているといえます。

政治フェイクニュースに接触した人の内、81.2%が偽情報だと気づいていない

私の研究チームでは、グーグルのサポートを受けて実施しているプロジェクト「Innovation Nippon」において、フェイクニュースの調査研究をしています。調査は15~69歳の男女5,991名を対象に2020年9月に行い、新型コロナ関連10件、政治関連10件の合計20件のフェイクニュース[i]を使って、実際の接触・拡散行動を分析しました。

まず、人々の接触行動について調査したところ、51.7%の人が1件以上のフェイクニュースに接触しており、たった20件のフェイクニュースですが、2人に1人以上が接触していることが分かりました。

 さらに、「フェイクニュースを偽情報と気付いているか」については、新型コロナ関連フェイクニュースを偽情報と気付いていない人は接触者の41.1%に留まっていたのに対し、政治関連フェイクニュースについては81.2%が気付いていませんでした(図1)。

フェイクニュースを偽情報と気付いていない人の割合

図1 フェイクニュースを偽情報と気付いていない人の割合

これらはすべてファクトチェック済みのフェイクニュースにも関わらず、です。さらに、政治関連フェイクニュースについては、年代による差もなく、若い人から中高年まで、約80%の人が偽情報と気付いていませんでした。

 新型コロナ関連で偽情報と気付いていない人(騙されている人)が比較的少なかった理由としては、①元より疑わしいものが多かったことと、②マスメディアやネットメディアで幅広くファクトチェック結果が報じられたこと、の2点が挙げられます。②は同時に、ファクトチェック結果を報じることが高い効果を持つことを示唆しています。

フェイクニュースの真偽判定能力に影響を与える要素

フェイクニュースを偽情報と気付くかどうかの真偽判定能力について回帰分析を行ったところ、以下のような傾向が見られました。

リテラシー
情報リテラシーが高いことが、新型コロナ関連フェイクニュースの真偽判定能力を大きく高めていました。ここでいう情報リテラシーとは、「筆者の意見が入った文章かわかる」「文章から確実に言えることが何かわかる」といった能力のことであり、端的にいうと読解力・国語力に近いものです。

 メディア接触・信頼
ソーシャルメディアで情報・ニュースに接触することは、フェイクニュース真偽判定能力を弱めておらず、むしろ多様な情報源から情報を摂取する人は真偽判定能力が高いという結果になりました。ただし、ソーシャルメディアやメールへの信頼度が高いとフェイクニュース真偽判定能力が低い傾向がありました。

 マスメディアへの不満・生活への不満
マスメディアへの不満や自分の生活への不満が大きいと、フェイクニュース真偽判定能力が低い傾向がありました。特に、政治関連フェイクニュースの真偽判定能力には、マスメディアへの不満が最も大きな影響を与えており、不満が大きいほど偽情報と見抜けない傾向が顕著に見られました。

「誰でも騙される」を忘れない

フェイクニュースには年齢関係なく、誰でも騙される可能性があります。また、2020年に発表した別の研究では、「自己評価の高い人」が偽情報と気付きにくい傾向にあることも分かっています。「自分は騙されない」と自信を持っている時ほど、危険なのです。

大切なのは、情報にはフェイクがあるかもしれないと、常に謙虚な姿勢で接し、自分なりに情報検証して考えることが大切です。それはネットの情報だけに限りません。私の研究では、フェイクニュース拡散手段として「家族・友人・知人との直接の会話」が最も多いことが分かっています。

そのうえで、情報検証しても分からなかった場合は、拡散しないことを心がけましょう。1人1人がそのような心掛けをすることで、フェイクニュースの拡散を大きくとめることが出来ます。

 

脚注


[i] 2020年1月~2020年7月の間にファクトチェックされた実際のフェイクニュース事例。政治フェイクニュースについては、リベラル派にポジティブなものを5件、保守派にポジティブなものを5件とした。フェイクニュースの詳しい内容は以下の報告書を参照
(https://www.glocom.ac.jp/activities/media/7119)

参考文献


1.withnews(2020)「大統領選の陰謀論、日本で広めたのは誰? 英語の数上回るツイートも(https://withnews.jp/article/f0210208002qq000000000000000W00j11101qq000022495A)
2.シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所(2021)「デジタル・クライシス白書」
(https://www.siemple.co.jp/document/hakusyo2021/)
3.山口真一・菊地映輝・青木志保子・田中辰雄・渡辺智暁・大島英隆・永井公成「日本におけるフェイクニュースの実態と対処策」(https://www.glocom.ac.jp/news/news/6505)
4.山口真一・菊地映輝・谷原吏・大島英隆(2021)「フェイクニュース withコロナ時代の情報環境と社会的対処」(https://www.glocom.ac.jp/activities/media/7119)

 
 
※シエンプレが扱うSNS・WEBモニタリングサービスの概要資料は以下からダウンロードできます。
 
 


 

SNS/WEBモニタリングサービスの概要資料

 


この記事を書いたライター

山口 真一

山口 真一

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授。1986年生まれ。博士(経済学・慶應義塾大学)。専門は計量経済学。研究分野は、ネットメディア論、情報経済論等。「あさイチ」「クローズアップ現代+」(NHK)や「日本経済新聞」をはじめとして、メディアにも多数出演・掲載。主な著作に『正義を振りかざす「極端な人」の正体』(光文社)、『なぜ、それは儲かるのか』(草思社)、『炎上とクチコミの経済学』(朝日新聞出版)等がある。他に、シエンプレ株式会社顧問、東京大学客員連携研究員、日本リスクコミュニケーション協会理事等を務める。

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授。1986年生まれ。博士(経済学・慶應義塾大学)。専門は計量経済学。研究分野は、ネットメディア論、情報経済論等。「あさイチ」「クローズアップ現代+」(NHK)や「日本経済新聞」をはじめとして、メディアにも多数出演・掲載。主な著作に『正義を振りかざす「極端な人」の正体』(光文社)、『なぜ、それは儲かるのか』(草思社)、『炎上とクチコミの経済学』(朝日新聞出版)等がある。他に、シエンプレ株式会社顧問、東京大学客員連携研究員、日本リスクコミュニケーション協会理事等を務める。