フェイクニュース拡散メカニズムと私たちにできること

日本でも広まるフェイクニュース

フェイクニュースと聞くと、あなたは何を思い浮かべるでしょうか。

米国大統領選挙、イギリスのEU離脱――フェイクニュースは欧米の問題というイメージを持っているかもしれません。しかし、実は既に対岸の火事ではなく、日本国内でも多くのフェイクニュースが広まっていることが分かっています。

「新型コロナウイルスは26~27℃のお湯を飲むと予防できる」
「4月1日に東京でロックダウンが起きる」

新型コロナウイルスに関連して、このようなフェイクニュース・デマを聞いたことのある人も多いでしょう。中には、「漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム)を飲むと新型コロナウイルスに効果がある」といった、生命に危険を及ぼすものまでありました。

それだけではありません。特定の政治家の立場を不利にするようなフェイクニュースや、ある事件の犯人とメディアが繋がっていたというもの、ネットメディアがPV数を稼ぐために差別的なフェイクニュースを掲載していたもの等、様々なものが既に日本でも拡散されています。

 

フェイクニュースは真実より拡散されやすいという事実

「フェイクニュースの方が真実より拡散スピードが速く、また、拡散範囲が広い」――衝撃的な研究結果が、2018年に学術誌Scienceに掲載されました。

マサチューセッツ工科大学助教のソローシュ・ヴォソゥギ氏らによる当該論文では、10万件以上のツイートを分析した結果、真実が1,500人に届くにはフェイクニュースより約6倍の時間がかかることや、フェイクニュースの方が真実より70%も多く拡散されやすいことなどが明らかになりました。

実際、2016年の米国大統領選挙では、選挙直前に、主要メディアの選挙ニュースよりも、偽の選挙ニュースの方が、Facebook上で多くのエンゲージメントを獲得していたことが分かっています。シェアの数だけ見ても、選挙前3か月間で、トランプ氏に有利なフェイクニュースは約3,000万回、クリントン氏に有利なフェイクニュースは約800万回、合計約3,800回もシェアされていました。

このようにフェイクニュースが拡散されやすい背景には、3つの理由があります。

①フェイクニュースは目新しい
コミュニケーションの研究では、目新しいニュースの方がより拡散されやすい傾向にあることが知られています。そして、創作であるフェイクニュースは、目新しさに関するどんな指標においても、真実を上回っていました。

②怒りは拡散しやすい
東京大学准教授の鳥海不二夫氏の研究によると、SNS上では怒りの感情が最も拡散しやすいことが分かっています。多くのフェイクニュースは、人々の怒りや正義感といった感情をあおるような内容になっています。「この人は許せない」「この事実を広めてやらなければいけない」――人々はこのような怒りの感情を抱いたとき、怒りの投稿とともにフェイクニュースを拡散してしまうのです。

③「友人の情報は信頼できる」という無意識のバイアス
コミュニケーション研究の分野では、人が情報を信頼する過程において、その情報発信者の専門性よりも、情報発信者とどれだけ話したかの方が、影響力が強いことが示されています。つまり、メディアからニュースを受け取るよりも、友人・家族からその情報を伝達された方が信じてしまうわけです。実際、私の研究では、フェイクニュースが拡散される手段として最も多いのが「友人・家族に直接話す」で、拡散した人の実に約50%の人が直接話して拡散していたことが分かっています。

 

産官学で進むフェイクニュース対策

このような状況を受けて、各種プラットフォーム事業者をはじめとして、様々なフェイクニュース対策がとられるようになってきています。

例えば、Twitterは誤解を招くような政治家や著名人の発信について、色つきのラベルを付ける機能を実装しました。また、FacebookがAIと人力を駆使してフェイクニュースのチェックを行い、ユーザも報告できる機能を実装した結果、フェイクニュースに対するエンゲージメントがピーク時の半分以下にまで減少したということもありました。

セーファーインターネット協会は、メディア・プラットフォーム事業者・学者など、様々なステークホルダーが偽情報について議論する「Disinformation対策フォーラム」を立ち上げました(私も構成員として参加しています)。総務省は、「プラットフォームサービスに関する研究会」でフェイクニュースに関する議論をしただけでなく、新型コロナウイルス関連のフェイクニュースのレポートを発表しました。

 

我々は何に気を付けていけばよいか

しかし、フェイクニュースというものは、太古の昔から存在したものです。ネットによりその拡散力が高まっただけであり、これを根絶することは不可能です。「フェイクニュースがない社会」というのはあり得ませんし、「全員がフェイクニュースに気づける社会」もあり得ません。

そのようなwithフェイクニュース社会において、対策として今すぐにできることというのは、私たち一人一人が情報に免疫力をつけることです。そのためには、次の3つを守ることが大切です。

1. 拡散する前に一呼吸おいて、ほかの色々な情報に当たってみる
2. メディアや信頼できる人からの情報であっても、うのみにせず安易に拡散しない
3. 感情的な拡散は危険なので控える

フェイクニュースに気付けなかったとしても、それを拡散しないことはできます。真偽のほどを確かめようがない情報が来たときは、内容を信じてすぐに周りの人に拡散するのではなく、自分で留めておくことが重要です。

一人一人がそうするだけで、フェイクニュースの拡散力は弱まるのです。そう、まさに各人がマスクをするなどでウイルスの拡散を防ごうとしているように、情報に対してもそのように気をつけることで、フェイクニュースというウイルスの拡散を抑え込むことができるわけです。

 

参考文献

  • Allcott, H., & Gentzkow, M. (2017). Social media and fake news in the 2016 election. Journal of Economic Perspectives, 31(2), 211-36.
  • Bottger, P. C. (1984). Expertise and air time as bases of actual and perceived influence in problem-solving groups. Journal of Applied Psychology, 69(2), 214.
  • Coldewey, D. (2018). False news spreads faster than truth online thanks to human nature. TechCrunch. https://techcrunch.com/2018/03/08/false-news-spreads-faster-than-truth-online-thanks-to-human-nature/
  • 新型コロナウイルス 解析で判明 攻撃的な投稿が早く拡散する理由 | NHKスペシャル、 https://www.youtube.com/watch?v=yVQvvIpLaBs

 

山口真一の代表的な著書

正義を振りかざす「極端な人」の正体(2020年9月17日発売

正義を振りかざす「極端な人」の正体
 
 
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この記事を書いたライター

山口 真一

山口 真一

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授。1986年生まれ。博士(経済学・慶應義塾大学)。専門は計量経済学。研究分野は、ネットメディア論、情報経済論等。「あさイチ」「クローズアップ現代+」(NHK)や「日本経済新聞」をはじめとして、メディアにも多数出演・掲載。主な著作に『正義を振りかざす「極端な人」の正体』(光文社)、『なぜ、それは儲かるのか』(草思社)、『炎上とクチコミの経済学』(朝日新聞出版)等がある。他に、シエンプレ株式会社顧問、東京大学客員連携研究員、日本リスクコミュニケーション協会理事等を務める。

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授。1986年生まれ。博士(経済学・慶應義塾大学)。専門は計量経済学。研究分野は、ネットメディア論、情報経済論等。「あさイチ」「クローズアップ現代+」(NHK)や「日本経済新聞」をはじめとして、メディアにも多数出演・掲載。主な著作に『正義を振りかざす「極端な人」の正体』(光文社)、『なぜ、それは儲かるのか』(草思社)、『炎上とクチコミの経済学』(朝日新聞出版)等がある。他に、シエンプレ株式会社顧問、東京大学客員連携研究員、日本リスクコミュニケーション協会理事等を務める。