2020.12.08

【SNS分析】NikeのCMは「炎上」なのか?データから広報・マーケ担当が学ぶべきことを考察

【SNS分析】NikeのCMは「炎上」なのか?データから広報・マーケ担当が学ぶべきことを考察

ナイキジャパンが11月28日、「差別」をテーマにしたPR動画をYouTube上に公開した。

その後、「物議」「炎上」という見出しをつけた記事が公開され、一部の投稿には「捏造である」という内容も確認されている。ネガティブな意見が多いという印象をもっている人も多いのではないだろうか。

先に分析をした感想を述べておくが、ナイキジャパンの担当者は「炎上」とは捉えていないかもしれない。なぜなら今回、ネガティブよりもポジティブな意見が多いという結果がでたからだ。本記事をきっかけに、今回のCMを「炎上」と捉えるのか、「成功」と捉えるのか、自社内で議論をしてみると「炎上」リスクを回避する新しい視点が見えてくるのではないだろうか。

デジタル・クライシス総合研究所は今回、実態を把握するために感情や拡散経路、拡散のきっかけとなっているサイトなどを調査した。調査結果を踏まえて企業が学ぶべきポイントについても考えてみた。ケーススタディの一環として活用してほしい。

 

調査概要

記事内に登場するグラフやデータについてはすべて以下の内容で調査した結果となっている。

■調査ツール:TDSE提供のソーシャルアナリティクスツール「Netbase」を使用
■調査対象:ナイキジャパンが公開した「動かしつづける。自分を。未来を。 The Future Isn’t Waiting. | Nike」に関する投稿
■調査キーワード:「Nike」「ナイキ」AND「CM」「PR動画」「動かしつづける」
■調査期間:11/26~12/8
■Twitterデータ:Decahoseデータを100%にスケーリングして使用(※)
■取得言語:日本語

※Decahoseとは、ツイートデータの10分の1の母集団のこと。10分の1のデータを実態に近い数値にスケーリング(拡張)して調査。
※その他の仕様は「Netbase」の仕様に準拠。

 

投稿数推移

まず最初に投稿数の推移からみていきたい。全体の投稿数、ポジティブ、ネガティブそれぞれの推移をグラフ化した。

NikeのCM炎上

※調査概要を基に編集部作成

11/28の公開後から投稿数が伸び始め、30日にピークを迎えていることが分かる。その後、12/3にも投稿数が増加しており、2回目の盛り上がりがみてとれる。

編集部が調査してきた他事案ではピークは1回であることが多いため、2回目の盛り上がりは特徴的な動きであったと言える。

また、次の項目でも分析しているが、ネガティブよりもポジティブな投稿が上回った状態で推移していることが分かるだろう。

 

感情(センチメント)分析

上記のグラフにもネガティブとポジティブの投稿数推移が盛り込まれているが、全体の割合は以下のようになっている。

NikeのCM炎上_感情

※調査概要を基に編集部作成

 

上記はツールで自動精査した結果であり、参考値ではあるがネガティブ45.5%、ポジティブ54.5%となっており、ポジティブのほうが多くなっている。実際には以下のような投稿がみられている。実際にあった投稿から文章をまま引用して記載する。

 

ポジティブ投稿

・「反差別の精神を大事にしてきた日本人が、ナイキのCMを否定する理由がない。」

・「大人社会でさえこんな差別がある。 ナイキのCM否定できるわけ無い。 現に私もさんざん見てきた。」

・「ナイキのCM話題になってるけど、あれ見て怒る理由がわからないなぁ。差別って日本でもあるでしょ、普通に。それを指摘されて怒ってるって事なの…?」

・「ナイキのCM、差別される人たちへの勇気づけが見事で、ちょっと泣きそうになった。なにが問題なんだ。ナイキ広報はいい仕事してると思う。」

・「話題のナイキのCMを見ました。 一部の人から日本には人種差別はない、などと批判的な意見が出ているようだけどそれは嘘。 川崎市では凄まじいヘイトスピーチやヘイトデモが展開され、多くの在日コリアンが苦しみました。」

 

ネガティブ投稿

・「ナイキは差別を煽って金儲け。 もう買わない、ナイキ。」

・「ナイキのCM今更見たけど明らかに日本を馬鹿にしてね? 二度とナイキ買わない そもそも買ってない」

・「ウイグル人への強制労働を有耶無耶にするため、 ナイキは日本人に濡れ衣を着せるCMを作ったのです。 「人権を尊重する人」はNIKE製品を買ってはいけません。」

・「中国共産党のウイグルチベット迫害問題はスルーですか?」

・「実際、ナイキはウイグル人虐殺に加担していて許し難い上に、 拉致殺人実行中の北朝鮮・朝鮮総連と連んで フェイクCM作ったのだから、十分非難に値する。」

 

感情の変化

注目すべきは感情の変化である。11/28に絞って分析すると以下のようになっており、ポジティブ投稿の割合は63.6%であった。全期間の割合54.5%よりも高くなっている。

NikeのCM炎上_11月28日の感情

※調査概要を基に編集部作成

 

ただ、翌日の11/29に絞って感情を分析すると以下のようになっている。ポジティブ投稿の割合が下がりネガティブ割合が上回っていることが分かる。

NikeのCM炎上_11月29日の感情

※調査概要を基に編集部作成

 

上記の円グラフにも表れているが、公開後すぐに批判が殺到したわけではなく、公開当日は概ね好意的な意見が多かった。実際に、ハフポストも称賛されているCMとして記事を公開しており、メディア側もポジティブな意見が多いという見方であった。

それが翌日になってフォロワー数128,790の「@Shin_Kurose」さんやフォロワー数41,688の「@nipponkairagi」さんがツイートしたことをきっかけに風向きが変わり、ネガティブな意見が増加し始めたのである。(フォロワー数は12月9日時点の数値)

 

推定インプレッション数

投稿数推移とあわせて推定インプレッション数の推移も注目ポイントである。以下が投稿数と推定インプレッション数の推移となっているが、投稿数が11/29にピークを迎えているのに対して、推定インプレッション数は12/3にピークを迎えていることが分かる。

NikeのCM炎上_推定インプレッション数

※調査概要を基に編集部作成

 

デジタル・クライシス総合研究所が2020年1月半ばに公開した「デジタル・クライシス白書2020」にも掲載されているが、Twitterで投稿が拡散したあとにメディアが放映・記事化するという動きの場合、投稿数と推定インプレッション数のピークに違いがでてくる傾向がみられている。

企業担当者にとっては、必ずしも投稿数と比例するものではなく露出度が高まるポイントを注視しておく必要があると言えそうだ。

 

サイト別分析

次にサイト別の投稿数を分析してみた。

NikeのCM炎上_サイト別

※調査概要を基に編集部作成

 

これもツールで拾える媒体が対象となっているためあくまで参考値ではあるが、2ちゃんねるや爆サイ、5ちゃんねるで投稿数が増加している傾向がみられた。

2ちゃんねる・5ちゃんねるは認知度が高い媒体であるが、それ以外にも爆サイやガールズちゃんねるといった掲示板も一定の投稿数が存在しており、炎上後の動きとしては注視しておく必要があると言えるだろう。

 

属性分析

どのような人が投稿しているのか、属性についても分析を行った。まずは都道府県だが、こちらは上位20個に絞ってデータをまとめた。2番目の図は性別、3番目は年齢となっている。

NikeのCM炎上_都道府県 NikeのCM炎上_性別 NikeのCM炎上_年齢

※いずれも調査概要を基に編集部作成

 

都道府県は東京都が圧倒的に多く、2番目が神奈川県となっており概ね人口の多い順になっている。性別や年齢も大きな偏りはみられていない。

 

YouTube分析

今回、対象となった動画はYouTubeに公開されているものであるため、YouTube上のコメントやいいねなどの分析も行った。以下は当該事案に関連する動画のアップロード数の推移と視聴回数の推移である。

NikeのCM炎上_YouTube分析※調査概要を基に編集部作成

 

視聴回数は公開後に激増しており、その後は目立った伸びはみられていない。それに対して動画のアップロード数は11/29から伸び始め、12/3にピークを迎えている。

Twitterは数時間で一気に投稿数が増加する傾向があるが、YouTubeは数日かけて関連動画が増加していく傾向がありそうだ。Twitterの投稿数や推定インプレッション数の推移とは違う動きをするという点が分かった。

また、以下は関連動画における「高く評価」と「低く評価」の獲得数推移である。

NikeのCM炎上_YouTubeの評価

※調査概要を基に編集部作成

 

11/26~12/8のすべての日付において「低く評価」よりも「高く評価」が上回っており、期間中の「低く評価」が合計66,175、「高く評価」が合計151,677となっており、「高く評価」が2倍以上となっていた。

「感情(センチメント)分析」でネガティブよりもポジティブな割合が高いというデータが出たが、YouTubeの評価においても同様の結果がみられた。

YouTubeの動画が原因となっているケースにおいては、「高く評価」「低く評価」の数も一つの評価指標になるかもしれない。

 

キーワード分析

投稿にどのようなキーワード、ハッシュタグが含まれるかについても調査を行った。

順位 キーワード ハッシュタグ
1位 cm #youcantstopus
2位 日本 #nike
3位 日本人 #ナイキのcm
4位 作る #nikeのcm
5位 企業 #もう買わnikeがする
6位 強制労働 #nike不買
7位 学校 #nikeは日本人に謝罪せよ
8位 ウイグル人 #目覚めろ日本人
9位 朝鮮総連 #ナイキのcmは日本ヘイト動画です
10位 動かす #ナイキ

※調査概要を基に編集部作成

ランキングの中に「ウイグル人」「強制労働」というワードが含まれていることが分かる。

今回の事象とは直接的に関係がない事案に関連するキーワードである。実際に、ウイグル問題に言及したツイートも多い。

企業が炎上してしまった際に、過去の不祥事や噂などに飛び火してしまう可能性があるということを示しているのではないだろうか。(編集部が調べた別の事案でも似たような事象が確認された)

 

記事化までのスピードとメディアの動き

記事化までのスピードとメディアの動きについても触れておきたい。

 

記事化までのスピード

最初に記事化をしたのは「秒刊SUNDAY」というメディアであり、11/30 10:53に記事化されている。(NIKEのツイッターCMが物議、涙腺崩壊・おかしい等様々な声)その後、「J-CAST」が12/1 16:52に記事化していることを確認した。(ナイキCM、「差別」踏み込んだ動画の真意 広報担当者「このフィルムの目的は…」

動画が公開されているのは11/28の0時となっているため、公開から58時間53分後に記事化されたことになる。(参考値ではあるが、「デジタル・クライシス白書2020」では48時間未満の放映・記事化が53.5%となっており半分以上は48時間未満には放映・記事化されている)

 

メディアの動き

最初に記事化した「秒刊SUNDAY」については、「その代償はあまりにも大きすぎた」「イメージアップを図ることが出来るのでしょうか」などの文言があり、この記事を読んだ人はネガティブな意見が多いという印象を持ったのではないだろうか。

感情分析やYouTube分析でも取り上げたように、ポジティブな意見が多いというデータがでていることは頭に入れておくべきだろう。

まとめサイトの存在は別の記事でも指摘したとおりだが、速報性を重視したWEBメディアの取り上げ方も注視しておく必要がありそうだ。

 

調査結果のポイント

様々な角度から分析を行った結果、

1.投稿数とインプレッション数のピークは必ずしも一致しない
2.ネガティブよりもポジティプな意見が多い、YouTubeの「評価」においても同様の結果である
3.5ちゃんねる・2ちゃんねる以外にも爆サイやガールズちゃんねるも一定の投稿数が存在する
4.Twitterは数時間で一気に投稿数が増加する傾向があるが、YouTubeは数日かけて関連動画が増加していく傾向がある
5.過去の不祥事や噂、憶測などへ飛び火する傾向がある

ということが分かった。

特にネガティブよりもポジティブな意見が多いという点は今回のCMが「炎上」と呼べるものなのか判断する一つの重要なデータになると思われる。

 

広報・マーケ担当が学ぶべきこと

最後に、現場担当者に向けた実践的な内容を整理してみた。

 

クリエイティブリスク診断を行う

少しナイキジャパンの担当者がどう感じているか想像してみてほしい。今回のようにセンシティブな内容をテーマにしたCMの場合、おそらくナイキジャパン内で公開前に「公開しても良いのか?」「批判がくるのではないか?」などの様々な議論がなされたのではないだろうか。

ナイキジャパンは今回の結果をどのように受け止めたのか考えてみると良いだろう。もし事前に想定した状態であり許容できる範囲であったとするならば、ナイキジャパンにとっては「成功」であったかもしれない。

この点については推測の域をでないためこれ以上は言及しないが、企業の担当者にとっては学ぶべきことが多い事案である。事前にリスクを洗い出して「許容範囲」を定める「クリエイティブリスク診断」を行うことが重要なのではないだろうか。

 

事前の準備

できれば公開前に「飛び火」する可能性がある事象について分析を行い、対応策を用意しておきたいところである。場合によっては「電凸」と呼ばれる一般消費者からの問い合わせが入るケースも考えられる。

露出した後は、時間単位でソーシャルリスニングを行い、デジタルメディア・マスメディア両方の動きを把握しておく必要があるため、役割分担や報告フローを決めて有事の際にスムーズに対応できる体制を構築しておきたい。

 

炎上中の「飛び火」に注意

本件に関連した疑義言説(フェイクニュース・デマの疑いがある情報)とみられる情報も確認されているため、「飛び火」の内容にも注目してもらいたい。

今や炎上から飛び火して疑義言説が発生してしまうことは珍しくないため、企業側が公式見解を発表するなど、デマ情報の拡散を防止する取り組みも必要になってくるだろう。

 

事後対応

デジタル・クライシス総合研究所では炎上が商品やサービスの購買・利用にどの程度の影響を与えるのか、というデータも保有している。そういったデータを活用して、炎上が売上にどの程度の影響を与えたのかを算出することも可能である。

ネガティブな意見の割合だけではなく、どの程度の影響を与えているのかを定量的に把握・分析することが次につながる学びになるのではないだろうか。

 

今回の分析が現場担当者の気づきになれば幸いである。