2021.03.29

報道ステーションのCMが炎上した理由を、成功事例と比較して考察

テレビ朝日「報道ステーション」が3月22日に公開したPR動画が「女性蔑視だ」と批判され、24日に番組から謝罪声明が出るとともに、動画が削除された。「CM公開→炎上→謝罪・削除」という一連の悲しい流れをたどった作品の長いリストにまた一つ、事例が加わったことになる。

 

なぜ「炎上」したのか

CMの何が問題だったかについては、すでにTwitterなどで多方面から指摘され、解説する記事もいくつも公開されている。

特に問題視されたのは「どっかの政治家が『ジェンダー平等』とかって今、スローガン的に掲げてる時点で、何それ、時代遅れって感じ」というセリフである。

治部れんげさんはハフポストの取材に、こう指摘している。

 

「一番の問題は、ジェンダー平等が達成されているという間違った認識に立っていることです。番組CMとはいえ、報道機関のものなので、事実に基づかなければいけない。なぜ、『ジェンダー平等は達成されている』かのように描いたのかを問いたいです」

 

治部さんが指摘するように、日本のジェンダーギャップ指数は世界153カ国中121位。特に政治経済分野で女性参加が少なく、順位を大きく下げている。ジェンダー平等には程遠い状況だ。

 

一方で「CMはジェンダー平等自体を時代遅れと言っているのではなく、すでに達成されて当たり前なのに、そうならずに政治的スローガンになっている状況が時代遅れだという指摘だ」とCMを擁護する声もあった。謝罪文の中でも「ジェンダーの問題については、世界的にも立ち後れが指摘される中、議論を超えて実践していく時代にあるという考えをお伝えしようとした」と説明している。

しかし、日本の報道機関自体がジェンダー平等への実践が全くできていない中で、説得力がないと言わざるをえない。そのことを指摘した私自身のツイートも、広く拡散した。

 

 

このツイートで引用しているデータはロイタージャーナリズム研究所の調査で、日本の主要報道機関(全国紙やキー局など)において女性の編集トップが2年連続ゼロ%と、調査各国の中でダントツ最下位であることを示している。テレビ朝日のCM動画で指摘された問題点はこれに止まらないが、それらは他の論考に譲り、ここでは実際にネット上でどのような反応が広がったかを、他の事例と比較し、その後の対応についても考えたいと思う。

 

Twitterでの批判の高まり、擁護論は一部に止まる

当サイトを運営するデジタルクライシス研究所と協力し、ソーシャルアナリティクスツール「Netbase」(TDSE提供)を使用して分析をした。3月22日に公開された今回のCM動画に対して、批判が一気に広がったのは23日夜からである。

 

青い線が総メンション数、緑と赤はそれぞれポジティブ、ネガティブな評価を含んだメンションの数を示している。批判の高まりとともに、評価する声も出ていますが、ごく一部に止まっていることがわかる。批判にはいくつかの山があって24日昼にかけて高まっていくが、擁護論は広がりに盛り上がりにかけていることがわかる。

 

量をわかりやすくするために円グラフにすると以下のようになる。圧倒的にネガティブな評価が多いことが一目瞭然だ。

これらの批判を受けて、報道ステーションは24日午後0時56分、以下の謝罪文をツイートし、動画をネットから削除した。

 

——–

【今回のWeb CMについて】

今回のW ebCMは、幅広い世代の皆様に
番組を身近に感じていただきたいという意図で制作しました。

ジェンダーの問題については、

世界的に見ても立ち後れが指摘される中、

議論を超えて実践していく時代にあるという考えを

お伝えしようとしたものでしたが、

その意図をきちんとお伝えすることができませんでした。

不快な思いをされた方がいらしたことを重く受け止め、

お詫びするとともに、このW ebCMはとり下げさせていただきます 

————

 

批判を受けても削除しなかった事例

CM動画で多くの批判を受けた事例として記憶に新しいのが、Nikeが昨年11月に公開した「動かしつづける。自分を。未来を。」だ。

3人のサッカー少女の姿を通じ、在日韓国・朝鮮人や外国人差別の問題を描いた動画に対して、「日本人は差別者であると批判する反日動画だ」などと批判が巻き起こった。「NikeCMが炎上した」という文脈で取り上げる記事も多数公開された。

しかし、報道ステーションのCM動画と大きな違いがある。先ほどリンクを貼ったことからもわかるように、NikeはこのCMを削除していないし、謝罪もしていない。Nikeの件について、デジタルクライシス研究所がネット上の反応を分析し、「NikeのCMは「炎上」なのか?」という記事にしている。

投稿数の推移とポジティブ/ネガティブな反応の量を比較したのがこの図だ。日本の課題に正面から向き合った動画を賞賛する声が広がるとともに、批判する声も広がっていることがはっきりとわかる。

 

 

総量を比較するために円グラフで見てみると、以下のようになる。

 

「炎上」と言っても、批判の声よりも賞賛の声の方が多いことがわかる。だからこそ、記事のタイトルは「NikeのCMは「炎上」なのか?」と問いかけるものになっている(実は私がこの記事の見出しや論点などにアドバイスをした)。

批判が予想される時にどうするのか

世の中にはすでに激しい論争が起こっているトピックがたくさん存在する。ジェンダーや在日、外国人などもその中に含まれる。すでに論争がある以上、そのトピックに触れるコンテンツを出せば、かなりの確率で批判は出てくる。NikeのCMを作った方々は、そのことを十分に承知した上で「動かしつづける。自分を。未来を。」というメッセージを打ち出すCMを作ったのであろう。

だからこそ、人を感動させる強い力を持ち、賞賛の声が広がるとともに、批判の声も出た。これは一過性の「炎上マーケティング」と呼ばれるようなものとは異なる。Nikeは歴代のCMでそのようなメッセージを打ち出しており、むしろ企業の打ち出す価値観として一貫性を持ったものである。

報道ステーションの動画はどうだったのだろう。この話題に触れれば、批判は出てくる。それでもあえてジェンダーについて語りたい。そこに一貫したメッセージ性はあったのだろうか。

この2つの動画への現象を同じ「炎上」という言葉で分析すると、本質を見誤るのではないではないだろうか。

その企業が持つ価値観、コンテンツのメッセージ、そして社会をより良い方向へ変えていく期待。これらが一致すれば、それがたとえ論争を巻き起こすトピックに触れる内容であっても、賞賛は批判を超えて広がりますし、そこに一貫性がなければ、「炎上」して削除・謝罪に追い込まれる事例は、今後も続くだろう。

 
 
 
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この記事を書いたライター

古田 大輔

古田 大輔

株式会社メディアコラボ 代表取締役  古田 大輔 氏(ふるた だいすけ) 1977年福岡生まれ、早稲田大政経学部卒。2002年朝日新聞入社。 社会部などを経て、アジア総局員、シンガポール支局長。 帰国後はデジタル版を担当。 2015年10月に退社し、BuzzFeed Japan創刊編集長に就任。2019年6月に独立し、 株式会社メディアコラボを設立。フリーランスのジャーナリスト/メディアコンサルタントに。 その他の役職に、インターネットメディア協会理事、ファクトチェック・イニシアティブ理事、Online News Association Japanオーガナイザー、早稲田大院政治学研究科非常勤講師など。共著に「フェイクと憎悪」など。

株式会社メディアコラボ 代表取締役  古田 大輔 氏(ふるた だいすけ) 1977年福岡生まれ、早稲田大政経学部卒。2002年朝日新聞入社。 社会部などを経て、アジア総局員、シンガポール支局長。 帰国後はデジタル版を担当。 2015年10月に退社し、BuzzFeed Japan創刊編集長に就任。2019年6月に独立し、 株式会社メディアコラボを設立。フリーランスのジャーナリスト/メディアコンサルタントに。 その他の役職に、インターネットメディア協会理事、ファクトチェック・イニシアティブ理事、Online News Association Japanオーガナイザー、早稲田大院政治学研究科非常勤講師など。共著に「フェイクと憎悪」など。